PART2 よくわからない?! でも…患者の意識に明らかな変化

患者の薬剤選択には薬剤師の助言が大きく影響

 主婦のAさんは糖尿病と高血圧症を患い、10年近く薬を飲み続けている。薬局で支払う薬代は、年間で約5万円もかかり、年金暮らしのAさんにとって決して安い金額ではない。そんな折、「慢性疾患の場合、後発医薬品に替えると薬代が半額になる」と聞き、喜んだAさんは薬局薬剤師に後発医薬品への変更を申し出た。
 ところが、Aさんが服用する糖尿病薬には同じ成分の後発医薬品がなく、高血圧症薬はすでに後発医薬品が処方されていた。薬剤師は、「薬価の改訂があり、先発医薬品にしても後発医薬品にしても値段はそれほど変わりませんよ」と説明してくれたが、「世の中で言われているほど簡単に薬代は安くならないのね」と、Aさんはがっかり。
 一方、小児喘息の子どもを持つBさんは、医師から署名入りの処方せんを出されたが、薬局薬剤師の説明を聞いて先発医薬品のままがよいと判断した。Bさんは「先発医薬品とまったく同じ成分・効能の薬ならば価格が安いほうがいいと思っていたが、薬剤師さんから効き目や味の違いがあり、小児用の薬は後発医薬品をおすすめしないと言われた。それで少なくとも子どもに飲ませる薬だけでも、もっと後発医薬品が普及し、安全性が確立してから選択しても遅くないと考えるようになった」と話す。

以前より薬局薬剤師の存在が大きくなった

 患者が希望すれば、後発医薬品に自由に替えることのできるいわゆる代替調剤システムだが、2人の患者の選択には薬局薬剤師の助言が大きく影響していることがよくわかる。最終的に後発医薬品に替えることはなかったが、代替調剤をきっかけに薬について薬局薬剤師と具体的なやりとりを交わしたことで、「以前より薬局薬剤師の存在が大きくなった」と感想を述べる。とくに医師から代替調剤に関する説明がまったくなかったことに不信感を抱いたBさんは、薬局薬剤師の存在感がかなり強まったという。
 それだけに薬剤師の説明や対応が不十分だと「先発医薬品を一方的に押しつけられた」という悪い印象ももたれかねない。Aさんには「後発医薬品や薬価に対する知識がないので、薬剤師さんに言われたことを鵜呑みにするしかなかった」と、やや釈然としない思いも残った。そして、「具体的に金額の違いを説明してくれると、もう少し納得できたかもしれない」と振り返る。
 コマーシャルの影響もあり、患者が後発医薬品に対して、まずイメージするのは“低価格”ということだ。「医療費が安くなる」という期待が高いだけに、そうではなかったときの失望感も大きい。また、すべての先発医薬品に対して後発医薬品が揃っているとの誤解を抱いている人も多い。こうした患者への説明に薬局は難しい対応を迫られるだろうが、いまのところ、薬局以外に正確に理解を深める場所が患者にはない、というのも事実である。

「薬を受け取る場所」から「薬の相談をする場所」へ

 「低価格」に魅力を感じる患者たちも、実際に後発医薬品を選択するとなると、いちばん気になるのが薬の“安全性”や“有効性”だ。Bさんは「後発医薬品の安全性や有効性、先発医薬品との効能の違いなどを分析したうえで、きちんとデータで示してもらえるようになると、患者も安心して選択できる」と話す。Bさんにこんな視点が芽生えたのも薬局薬剤師から知識を得たことが大きい。
 上記の2人だけでなく、今回話を聞いた患者たちは一様に、薬局薬剤師に対して「先発医薬品であれ、後発医薬品であれ、一方的に押しつけるのではなく、私たちが選択できる基準となるような情報をわかりやすく説明してほしい」と希望していた。
 「薬を受け取る場所」から「薬に関する情報を入手し、どの薬がよいのかを相談する場所」へ――。代替調剤システムをきっかけに、患者たちの保険薬局に対する認識は明らかに変わり始めている。