第17回 「ブラックコホシュ」

◆case◆患者さんと薬剤師のQ&A

患者さん:更年期障害の症状が気になってきました。米国のインディアンが昔から使っているブラックコホシュという薬草は効果がある、と聞きましたが、日本で売られている製品でも品質は確かでしょうか?
 
薬剤師:ブラックコホシュは、現在、米国では人気のあるサプリメントの一つで、月経前症候群や更年期症状の緩和に利用されています。しかし、肝毒性の可能性や、また、ブラックコホシュではなくそれに類似したアジア産ハーブが使用されている製品が確認されているので、治療として用いるのであれば、専門医の指示を受けましょう。

◆薬剤師支援memo◆

●ブラックコホシュとは

 ブラックコホシュ[英名:black cohosh, black snakeroot、学名:Cimicifuga racemosa(L.)]は、北米に分布し、先住民が神経痛の治療用薬草として伝承してきた、きんぽうげ科の多年草植物です。欧州では更年期障害の症状緩和の目的などで医薬品として販売され、日本や米国では食品として販売されています。

●厚生労働省から利用に関する注意喚起

 ブラックコホシュの利用が疑われる肝障害の事例報告が海外で出され、米国やカナダ、英国、オーストラリア、フランス、フィンランドから注意情報が出されたため、2006年8月3日、日本の厚生労働省もブラックコホシュの利用に関して注意喚起しました。
 肝障害に関しては、国外で49症例の報告が確認されており、4例では肝不全により肝移植が必要となったという報告があります。

●エストロゲン作用

 エストロゲン作用があるので、「女性ホルモンのバランスを整える」といわれ、月経前症候群や更年期症状の緩和に利用されています。経口摂取で更年期障害における諸症状に対して有効性が示唆されていますが、多くの場合効果が表われるまでに4週間ほどかかります。

●使用の上限は6カ月

 コミッションE(ドイツの薬用植物の評価委員会)では使用の上限を6カ月としています。

●治療には専門医の指示が必要

 適切に用いれば経口摂取でおそらく安全と思われますが、強力な作用があるので、治療目的で使用する場合は、ハーブ医療の専門家の指示を求める必要があります。

●類似したアジア産ハーブが混入

 ニューヨークで2002年から2004年に購入した11種のブラックコホシュ製品の品質について分析した結果、3種にはブラックコホシュではなくそれに類似したアジア産ハーブのActaea種(Actaea cimicifuga、A.dahurica、A.yunnanensis等)が、1種にはブラックコホシュとActaea種の両方が使用されていることが確認されたという報告があります。

●健康食品の摂取上の一般的な注意

 国内、国外を問わず、健康食品には複数の素材が添加されることが多く、有害物質が混入している可能性もあります。また健康障害の発生には利用者の体質の問題、医薬品の併用の 問題も関与するため、健康食品の利用と健康障害発生との因果関係を証明することは極めて難しいのが実情です。他の健康食品にも該当しますが、もし利用するときは注意して利用し、体調に異常を感じたら直ちに摂取を中止して、医療機関を受診し、 最寄りの保健所にもご相談ください。さらに医療機関を受診している方は、健康食品を摂取していることを医師等の専門職の方にお伝えしておくことが大切です。

●ブラックコホシュの安全性は?

 まれに胃腸の不快感を起こすことがあります。また頭痛、めまい、体重増加、足のだるさ、痙攣などもあげられます。過剰服用は、激しい頭痛、めまい、視覚障害、心拍数の減少、吐き気、嘔吐を起こします。

●服用に気をつける人は?

・妊娠期には陣痛の誘導、ホルモン作用、月経促進、無排卵作用、授乳期にはエストロゲン作用もしくは抗エストロゲン作用の影響が懸念されるため、妊娠中、授乳中の使用は出来ません。
・ホルモン感受性のがんや既往症をもっている人は、エストロゲン様作用があるので、使用を避けるべきです。

●相互作用に気をつける薬は?

・理論上、肝毒性のあるハーブやサプリメント、医薬品との併用は肝障害のリスクを増加させる可能性があります。
・レボチロキシン(甲状腺ホルモン剤)を100μg/日使用していた54歳の女性が、ブラックコホシュ1000mg/日を8カ月間併用し、劇症肝炎を生じたという報告があります。