どんぐり薬局では、患者さんの訴えで特に問題があると思われるものは処方医に対して文書を発信します。この文書には一定の書式を使うことにしています。
最初に「問題点」、その後に「経過」、「情報」、「考察」、「提案」の4点について記載します。問題点は「Problem」であり、経過は「Subjective data」、情報は「Objective data」、考察は「Assessment」、提案は「Plan」です。つまり、おなじみSOAPシステムによる情報発信です。
このコーナーでは、医師に対して、どんぐり薬局が発信する Drug informationをご紹介します。



Kさんは以前からひどい咳に悩まされていました。薬局にはいつもKさんの娘さんが薬をとりにきてくれます。娘さんは「おばあちゃんは一旦咳が出始めると数分間止まらず、とても苦しそうにしているんです。痰もからんでかわいそう」とおっしゃいます。
Kさんはエースコールを服用中。しばらく前から処方されているアストミンもあまり効果がでていないようです。
ACE阻害剤の副作用で出る咳は「空咳」。しかし、Kさんの咳は痰がからんでいます。エースコールの副作用なのか断定はできませんが、影響もあると考えて医師に情報提供することにしました。


Drug information:
○○先生

【プロブレム】
Kさんはひどい咳に悩まされているそうです。
処方)    (1)  アダラートL錠
ミニプレス錠
アストミン錠 
10mg
 0.5mg
10mg
2錠
3錠
3錠
分3 毎食後 14日分
                 
    (2)  エースコール錠
ラシックス
  2mg
20mg
  1錠
1錠
  分1 朝食後 14日分
T君はこの処方を服用すると胸がふくらむようです。「胸が膨らむのはテオフィリンのせいか?」と疑っており、テオフィリンだけを飲まない時期があったことがわかりました。
【経緯】
いつもどんぐり薬局には娘さんがお薬を取りに来てくださいますが、娘さんは「おばあちゃんは咳が出始めるとなかなか止まらず、とても苦しそうにしている」とおっしゃっています。 10カ月ほどまえからアストミン錠を1日6錠服用されております。
【情報】
咳が出始めると2〜3分続くこともあるようです。
咳は痰が絡む湿性のものだそうです。
【考察】
ACE阻害剤に特徴的な空咳ではないようですが、エースコールの影響もあるのではないかと考えます。
【提案】
以上、ご報告いたします。
仮にACE阻害剤による咳だとすれば、アストミンによる改善は期待できないかもしれません。Kさんの咳の症状について再度ご検討いただければ幸いです。

どんぐり薬局 薬剤師:○○


このDrug Infomation提出後、エースコールはブロプレス錠に処方変更されました。1カ月たって薬局にいらっしゃったKさんの娘さんは、「くすりがかわってからおばあちゃんの咳はずいぶん楽になりました」とおっしゃいました。

エースコールに限らず、ACE阻害剤では咳の副作用が発現することがよく知られています。ACE阻害剤の咳は、アンジオテンシン変換酵素阻害によって引き起こされる気道でのブラジキニンやサブスタンスPの増加が原因といわれています。
ACE阻害剤の咳の改善を目的にさまざまな薬物(鎮咳薬、抗炎症薬、気管支拡張薬、利尿薬、トロンボキサン合成酵素阻害薬)の投与が試みられてきましたが、その効果はいまひとつのようです。そこで咳がでている方では酵素阻害作用のないARBに変更することで、咳を軽減することが多いようです。

Kさんの場合も、処方が変更となり、結果的に咳は軽減されました。

ACE阻害剤の咳の副作用は、副作用症例を収集して分析した結果から、頻度は5〜10%といわれ、乾性であること、女性に多く、投与中止によって改善することが分かっています。しかし、Kさんの咳は痰がからんでおり、いわゆる空咳ではありませんでした。
あらためてACE阻害剤による咳の副作用症例の報告を見直してみると、エナラプリル、カプトプリルを服用していた患者に空咳が発現し、その咳が継続するうちに喀痰の増加が認められた症例を数例見つけることができました。
多くの副作用症例を集めて、分析し、その傾向を見つけ出し副作用の発現防止に役立てるのは非常に重要なことです。しかし、個々の症例の経過をたどり、目の前の患者さんにあてはめて考えることも大切なことがわかりました。
“空咳”という「言葉」にとらわれすぎてはいけない場合もあるのだなぁと思いました。